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​最新情報

  • 執筆者の写真日本18世紀学会事務局

『啓蒙思想の百科事典』刊行のお知らせ



このたび丸善出版より、日本18世紀学会が編纂の主体を務めた『啓蒙思想の百科事典』(日本18世紀学会 啓蒙思想の百科事典編集委員会編)が刊行されました。長尾伸一編集委員長による「刊行にあたって」の言葉を引くと、「本書はわが国で初めて出版される啓蒙思想の事典」であり、「啓蒙思想の全体を通覧できる事典は今まで存在しなかった」と言えるものです。内容については、版元の紹介ページをご覧ください。啓蒙思想についての幅広い入門書として、ぜひこの「読む事典」をお手にとっていただきますようお願い申し上げます。




刊行にあたって


 本書はわが国で初めて出版される啓蒙思想の事典である.同種の事典はすでに欧米諸国でいくつか編纂され,また日本では第二次世界大戦後に啓蒙研究が盛況を見せて,原典や欧米の研究書の翻訳から独自の優れた研究,叢書にいたるまでの多くの書物がすでに出版されているが,啓蒙思想の全体を総合的に通覧できる事典は今まで存在しなかった.

 戦後の啓蒙研究の国際的フォーラムはフランス,アメリカ合衆国,イギリス,カナダなどで結成された各国18 世紀学会の連合体として,1967 年に設立された国際18 世紀学会(ISECS:International Society for Eighteenth-Century Studies)だが,本書は国際学会の加盟団体である国内学会として1979 年に結成された日本18 世紀学会が設立記念事業として企画し,編纂の主体となっている.この経緯から,本事典は日本にとどまらず,国際的な啓蒙研究の最新の水準に立ちつつ,日本の研究独自の視点を加えて,研究者から啓蒙思想に関心を持つ読者すべてに啓蒙に関する知識を提供する事典であり,入門書となっている.

 国際18 世紀学会や日本18 世紀学会は,啓蒙とそれにかかわる文化的事象を総合的,学際的に理解することを目的としており,ヨーロッパ18 世紀を研究する様々な専門分野の専門家たちを会員とする学際的学会である.そのため本事典は,通常啓蒙という言葉から連想される哲学や政治・社会・経済思想などにとどまらず,啓蒙を代表する出版物である『百科全書Encyclopédie』にも倣って,入門書としての概観性を保つ範囲で,啓蒙と18 世紀に関するすべてを網羅した,文字通り「啓蒙思想の百科事典」である.

 本書は「読む事典」として企画されており,第2 部から第5 部までが時代順に配列されている.第1 部では現代の啓蒙研究にとっての必読文献といえるいくつかの研究と研究書および日本の啓蒙研究を解説し,第2 部ではルネサンスから17 世紀までの啓蒙の前史に関する事項を扱う.中心部分である第3 部は啓蒙の全体を通観する章から始まり,その後に主題の内容別に項目を分類して示している.第4 部では19 世紀以後の世界での啓蒙の影響を追跡し,第5 章では現代思想と啓蒙の関連を議論する.このような構成となっているので,本書は多数の著者による様々な項目から成ってはいるが,最初から最後まで一冊の書物として通読していただくことができる.とはいえ通常の事典のように,関心を持ったどの項目から読み始めていただいても,関連する項目へ次々に飛んでいくことで,やがてばらばらの知識の総計ではなく,啓蒙の全体を観察することができる.本書の編集方針がそうであるからだけでなく,様々な知識が自律しながら緩やかに結びついて全体を形作るのが,百科全書および啓蒙時代の知識の在り方だったからである.

 本書第1 部で解説された啓蒙研究の先駆者たちを受け継ぎ,国際18 世紀学会や日本18 世紀学会などをフォーラムとする現代の啓蒙研究は,啓蒙を現代人の眼で西洋の近代思想と見るのではなく,それをまず18 世紀の歴史的文脈の中に埋め込まれた歴史的事象として,あくまで内在的に理解しようとする.そうしなければ啓蒙の「歴史的役割」,「今日的意義」などを論じることはできないと考える.思想は抽象的,普遍的な概念ではなく,ある社会的現実の中で生成し,当時の知識と文化の全体と結びつきながら,そこで特定の機能を果たす.過去の思想の理解はそこから始まる.そのため現代の研究は知識,文化およびそれを支える社会の実態をとらえるために,原資料を探索し検討する実証研究となり,また多方面の専門分野を総合する学際的な方法を採用することになる.本事典はこのような観点から,啓蒙時代の知識と文化の全体を扱い,色とりどりの万華鏡のような,絢爛とした一大絵巻のようなその世界を描き出すことで,啓蒙の実像を示そうとしている.

 本事典は啓蒙の地理的舞台となったユーラシアの西端にあるヨーロッパではなく,その反対の極東に位置する日本の学会による出版であり,それを自覚して,日本での研究の個性を明確にするように心掛けて編集されている.啓蒙は18 世紀ヨーロッパ固有の思想的,文化的現象だが,同時期の東アジアには類似の現象が見られ,啓蒙時代にも中国などからの影響が見られるので,これらを考慮すると,それはさらに少なくとも初期近代ユーラシア世界の発展の中で理解される必要がある.また工業化以前の18 世紀的世界の現象とはいえ,啓蒙が19 世紀以後の近代思想に多くの基本観念を供給したことも確かである.この関係には,この世紀に始まる欧米諸国による世界の実効支配に,思想的文化的武器を提供したという負の面がある.人間中心主義やユーロセントリズムの萌芽も,啓蒙の中に見ることができる.しかし知性と経験に基づいて文明を立て直し,人間化しようとするムーブメントとしてとらえれば,啓蒙の影響はそれを超えて現在にまで波及し続けている.啓蒙思想は講壇で整然と講義される教説ではなく,相互に矛盾し,対立し,干渉し合いながら展開してきた.それは啓蒙が時代と担い手を変えながら変貌していくプロセスであり,運動であり,中心のない波動だからである.本事典の中を旅しながら,「近代」を育くみながらそれをも超える,啓蒙の多彩で豊饒な世界を体験し,そこから現代を考えるための何かを得ていただければ幸いである.


 2022 年12 月1 日

編集委員長 長尾伸一




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